漢陽都城10人10色 エピソード07 日本語訳
2016年 10月 30日
膝の筋トレのために通い始めたトレーニングジムは、一方の壁が一面の鏡になっているので、ふとした時に嫌でもわが姿が眼に入ってきます。
「あの鏡、おかしい!」
ブティックの姿見などは、心持ち、細く映るようにしつらえられていると思いますが、このジムの鏡は、その逆バージョンのようだと、とっさに感じてしまったのです。しかし、冷静に考えると、それは実像。歩き回れなくなってからのたった1か月半の間に、ますます肉がついてしまっていたのです。体重そのものはそれほど増えてはいないのに、観た眼は最悪。いつもいつも思うこと。こつこつと何かをし遂げる場合の努力はいい結果を生むけれども、逆も真なり。膝のためにも減量は必須事項。特効薬は、ナムギルさんの来日情報かも知れませぬ。
©Gilstory
さて、エピソード07の日本語訳です。漢陽都城プロジェクトに際して、ナムギルさんは、途切れた道を探して歩くだけでなく、相当、いろんな本や資料を読んでいることがわかります。今回は、若くして人生を終えたひとりの文人を巡ってのエッセイです。
キム・ナムギル、過去と現在、そして、未来につながる人生
2016.10.18 by キム・ナムギル
ソウルの南大門あたりに暮らし、生涯に特別なこともなく、文章を読み書きしながら短い人生を生きた21歳のひとりの士大夫。1775年元旦に文章を書き始め、彼が十年以上認めてきた数十冊の彼の特別な日記。僕は漢陽都城を歩くたび、彼の日記を思い出す。
その長い時間の間、毎日のように残した内面の告白と過去と現在そして未来につながる生活を描いた彼の日記。そうやって、自分が生きた時代を次の世代につないだ彼は、文章を書くのと同じくらい、こまめに旅に出かけたという。
朝鮮時代には、旅をしようとすると、あらゆる苦労をせねばならなかったはずだが、「旅」こそ、世の中でそんなに楽ではないはずと思っていたこの特別な学者はいつも一人で歩き回っていた。それも、何の目的もなくあちこちを、高尚な場所、卑しい場所のえり好みなく、朝鮮の土地の上をかけずり回った。そうやって彼は直接歩き回る両班となった。
緑のセリが柔らかく咲き誇り、わらぶきの家の塀を取り囲む安岩洞、カササギが姫垣の上を行き来するたびに、その足の裏につく桃の色で満開になる城北洞、雲ひとつない星の夜、ホタルが月光りで薄明るい清渓川など、彼の描写は今の都城の壁に昔の漢陽の姿を生き生きと投影させる。
その内密な街の土の匂いが出る風景
そして、彼が描いた風景は、その時代の公式記録とも一致する部分が存在する。正祖王が還宮した日、南大門で王を見るために多くの人々が集まってきたという。この日の「日省録」という記録には、正祖は見物する人々が日暮れて互いに踏み合う事故が起こるのを懸念して、南大門と昭義門を閉めずに夜間通行禁止も解除せよとの指示もあったという。
そして、この日の記録を彼も残したという。おそらく、その日、彼も王の行幸を見に家の近くの南大門から王の輿が通り過ぎるのを待っていたのだ。そして、その場にいた灯りの下に映る人々の表情さえ見えるように書こうとした。
そのほかにも、彼が歩いた漢陽都城の内と外の旅路はいつも詳細であり、繊細だった。おそらく彼にとって、都城の内と外を旅するすべての過程は、また別の書きものだったのだ。心の中にそのどんな色や形もなく、散乱する塵のように漂う思考や感情を集めて整理しようとした漢陽都城のスンソン(城めぐり)道。
その時期、病気の子供や家の心配で重い気持ちを楽にできないまま、ふさぎこんで家に帰る道。やがて、漢陽都城に入る城門に向き合う頃、泊まることになった居酒屋。そのそばの垣根には、彼の好きなハマナスが見事に咲いていたという。
そしてその瞬間、実に不意に、やりたかったことを繰り返し考えるようになったと告白する。「今とは全く違う姿で世の中に隠れている物語を探し回って、それを書き記したい」ということだ。
異なる時空間を持っている漢陽都城
それほど、どこであれ、歩いて、立ち寄ってみながら、自らとの対話を愛した両班。そんな人なら、スンソン(城めぐり)という壮挙をする季節が変わる間にどれほど歩んだのかを想像してみる。少なくとも、季節が変わるたびに出かけたのではないのか?
節季ごとに変わる城郭の下の風景だけでも他の時空間にいるような勘違いをする漢陽都城だけれども、すでに、あり余る秘境を持っていたとしても、いつまで、この都城の中だけに閉ざされて姫垣のうえを走り回りながら、遊ぶカササギだけを見物するうちに、この人生すべてが終わってしまったらどうしようと焦ったりすることもあったという。
200余年前の朝鮮でも今日でも、人が暮らす世の中は似たようなものか、自分との戦いと和解を繰り返す内に、自分自身を憐れむ彼の告白は日記の中に生き生きと残っている。ある部分は、見る人が皆、胸が痛み、垂れた肩を叩いてあげたいほどだ。
あなたが生きていた時空間に込められたそのスンソン道がうらやましいと、天運をもって生まれたのだと語ってあげたい。あなたもそれを知っていたのかと、すでにその話の中に残る漢陽都城の土の道がどれほど美しかったのか。。すでに彼の両の眼に収めていたはずだから羨ましくてしようがないと、今さら途切れた漢陽都城を全部復元することもできないというわけだ。
過去と現在、そして、未来の繋がりの輪
日記を書いた人。大丈夫だと言うには、大丈夫ではない日にも、幸せだとあえて声に出して告白するには恥ずかしい日々にも、進んで自分が存在するその場で日常を記録した誠実な作家。彼はさほどに極めて私的な経験を記憶して天が与えた命を全うしようとした「欽英(흠영)」を書いた「ユ・マンジュ(유만주)」である。
(注: ユ・マンジュ 1755~1788)
今もなお、漢陽都城のスンソン道に漂っている彼の時間、その人が見たその時代の漢陽都城を共に想像してみる。彼が歩きながら昔の時代をたどったように、語っていた都城の内と外の記憶を今の漢陽都城に重ねてみる。
いつの間にか、とうに消えてしまったものとの鮮やかな対話が始まる。そんなにもちっぽけな生の美しさ。そうして、今日も漢陽都城が送る風の道から聞こえてくる昔の音に耳を傾ける。漢陽都城を通して自分との繋がりを望みながら...「現在とは全く違う姿で世の中に隠れる話を探し歩いて、それを文章に書き記したい」と僕もまた願うのだ。
キム・ナムギル
「下に紹介する映像は、<ギルストーリー: ソウル漢陽都城10人10色プロジェクト>の市民参加者、キム・キョンスさんが直接撮影した映像で『繋がり』をテーマに制作されました」
写真と映像は、こちらをご覧くださいませ。
「ぼくたちが作る文化遺産、漢陽都城10話」はこちらです。
キム・ナムギル、仁王山を
越えて彰義門へ
Episode 07話は、まさしくナムギルさんが連載とEpisode とを分けて語りたいと意図しておられたことが明確に伝わってくるお話しだったと思います。連載とEpisode の絶妙なバランス、交互に配信することで醸し出される相乗効果は、拙い私の和訳でも十分に感じることはできましたが、おまさぼうさまの完成度の高いストーリーでさらに克明に読みとることとなり、そのおかげでナムギルさんの文章力、構成力に完全にノックダウンと相成りました。
おまさぼうさまのおっしゃる通り、ナムギルさんは相当な量の資料を集め吟味しておられますね。これだけのストーリーにまとめ上げるにはこの3倍は書き込まねば完成しないと思いますし、構想そのものも一朝一夕になるものではなく、あのお忙しい体でいつからこんなに壮大な夢を…⁇とお聞きしたくなるほどです。
漢陽都城を歩くたびにナムギルさんが思い出される日記、そして同じように記していきたいと思われるお気持ち、漠然としていたものがある瞬間に頭の中で一つの形を持ち始めるときの、あっ…と思う感覚…読みながら、私までまた書きたいと思わせていただきました。書きながら、次の文章が浮かんでくるときの幸せな気持ちを思い出して♡ アナログ人間の私は未だに手書きが一番スムーズですが、ナムギルさんはやっぱりお若いですから、こうした文章を書かれるのはペンではなくパソコンなのかな、と想像しています。
連載の方は途中からサボっています。ひとつには、最近の文章は、by ナムギルではなさそうなので、そうなると、グンとやる気が低下してしまう方でして(苦笑)。また、連載の記述は、実際に漢陽都城を歩く時にこそ読むべきものと考えてましたが、映像や写真を見るたび、私の膝ではもう無理とあきらめの境地です。
でも、連載の10話には、以前記事にも書いたことのある詩人の尹東柱さんのことも書かれているようなので、ここだけでも、ちゃんと読みたいと思っています。
ナムギルさんは、日記は手書きでしょうけど、エピソードはパソコンではないですか? それでないと、どなたかが打ち込まないといけないし、大変な手間ですもんね。
ちなみに、やんたろさまは手書き派なんですね。私はもっぱらパソコンです。だから、偶にハガキなどを書くと、字が乱れきっています(T_T)
中程「心の中に そのどんな色〜〜スンソン道」好きです(*^^*)
おまさぼうさまの、愛のフィルターを通して 読ませていただく度に、ギルさんの内面構造が、今までの想像を より確信に ! !
原文は一切読めないので、おまさぼうさまを介し、またまた勝手な妄想の世界に(笑)
いつも ありがとうございます(((o(*゚▽゚*)o)))
私は、ドラマのお茶の間シーンの、日常会話を少し聞き取るだけで完全ストップしてます^^;
今回のエッセイもいいですよね。昔の若い学者が見た漢陽都城を羨みながら歩いているナムギルさん。最近のエッセイを読むたびに、漢陽都城を背景にした時代もののサスペンスなんかがいいと思うんですけどね。もちろん、彼が事件を解決する役でね。
わたしも、台詞の聴き取りはほんとに怪しいもんですけど、翻訳は時間をかければ、ある程度はできますからね。楽しみながらやってますけど、今はあまりパソコンの前で集中したくないので、いつも遅くなってごめんなさい。