光市母子殺害事件 <判決6月20日午後3時>

7日のテレビ朝日「報道ステーション」は、被告の父親の声を放送した。事件直後、被告の祖母はショックから急死し、2歳下の高校生だった弟は家を飛び出し行方知れずという。実の母は被告が中学1年生の時に自殺、事件当時は父の再婚相手がいた。父親は本村さんと同じ職場にいたため辞職。家族の生活は一変する。

事件から7年、父は犠牲者本村さんに会おうとしなかったという。その理由を問われ、(本村さんの)心を逆なでしたくないし、刺激を与えるような行動を取りたくなかったからと答えた。

父親の話を聞きながら、東野圭吾さんの小説「手紙」(毎日新聞社)がしきりに思い出された。兄が泥棒に入った家で殺人を犯し、たった一人の家族である高校生の弟は社会からの差別を経験することになる。自分が犯した罪でもないのに、どうして自分がこんな仕打ちを受けねばならないのか。やっと勤めた職場でも身元がわかり、不当な人事異動を強いられる。そして社長から思いがけない言葉をかけられる。

「君が兄さんのことを憎むかどうかは自由だよ。ただ我々のことを憎むのは筋違いだといっているだけだ。もう少し踏み込んだ言い方をすれば、我々は君のことを差別しなきゃならないんだ。自分が罪を犯せば家族をも苦しめることになるーすべての犯罪者にそう思い知らせるためにもね」
<犯罪者は自分の家族の社会性をも殺す覚悟を持たねばならない。そのことを示すためにも差別は必要なのだ。>

「手紙」の弟はある契機から事件から何年も経ってやっと遺族への謝罪に出向く。
「息子がしたことですから、息子が責任とるのが当たり前ですから、その親の責任って、親は責任とってやりようがないんですよ」と光市母子殺害事件被告の父は言うが、はたしてそうなのだろうか。息子が事件を犯さなかったら家族もバラバラにならなかったと語る父は7年経ってはじめて息子に面会した。

しかし、息子に会う前に本村さんに謝罪するのが本当ではないのか。本村さんから拒絶されようと、蹴飛ばされようと、親としては謝罪するしかない。し続けるしかない。辛いのは当然だ。私もその立場に立つことを考えると身がすくむ。だが、本村さんはもっと辛い7年だった。酷な言い方だが、被告の父が未だ本村さんに謝罪していないのは、自分の防御本能ではないのか。

殺人を犯した者は被害者や遺族の未来を奪うだけでなく、自分の家族の人生をも奪ってしまうのだ。小説「手紙」の読後感は非常に重いが、出来るだけ多くのひとに読んでもらいたい本でもある。
Commented by おまさぼう at 2006-06-08 00:42 x
そうそう、「手紙」が映画化されます。

Commented by nob at 2006-06-08 09:45 x
報道ステーション、私も見ました。何ともいいようの無い気持ちになりました。自分が子(未成年)であった時代と今の世、親子の関係が大きく変化たんですね。その昔、親は子のためには命を落としても本望でした。親は子のしでかしたことには子以上の責任を負ったものです。現代社会には友達感覚の親子が増えように思います。憂うべきことです。親子関係は決して友達関係ではないし、兄弟関係でもないのです。子は親の背中を見て成長します。少しは子に尊敬され、大いに煙たがられる親を目指しています。
Commented by 雪虫 at 2006-06-08 09:55 x
親の七光りで楽に生きる人もいれば、家族の罪で自分の人生も思うように生きられない人もいますよね。個人的には子の罪に対して親は責任があるけれど、その反対はないかな、と思います。子どもの頃、母親が弟をせっかん死させた、という子が町内にいました(事件後姿を消しましたけどね)。何度も一緒に遊んだ兄弟だったので幼心にもものすごい衝撃でしたし、その後の人生を思うとまた胸が痛みます。
Commented by おまさぼう at 2006-06-08 23:11 x
nobさん、雪虫さん、コメントをありがとうございます。

子供ってホント、親の背中を見ていますよね。「子供は親の鑑」というのは怖い言葉ですが、真実かも知れません。

ここという時に親は逃げてはいけませんね。昨夜の放送を見ていてそう感じました。
Commented by unlucky7 at 2006-06-11 00:35
始めまして。私も放送を見ておりました。あまりの無責任さに唖然とし、この親にしてこの息子だと妙に納得致しました。おまさぼう様の「拒絶されようが蹴飛ばされようが謝罪し続けるべき」は本当におっしゃるとおりだと思います。自分の何が悪くてこんな息子になってしまったのかを考えてほしかった。
Commented by おまさぼう at 2006-06-11 11:32 x
unlucky7さま、コメントをありがとうございます。

今、この時期にインタビューに応じた父親の気持ちが私にはわかりません。テレビに出る前に謝罪に行けよと思います。
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by omasa-beu | 2006-06-08 00:33 | 社会のこと(忘れてはならない) | Comments(6)

終活しなくちゃと思いながら毎日をだらしなく送っている団塊の世代です。写真は、ドラマ『子連れ狼』(北大路欣也さん版)の大五郎(小林翼さん)。私の癒しです。スカパー「時代劇専門チャンネル」のTV画面から撮影。問題でしたらお知らせください。


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