日本映画「明日の記憶」(ネタバレあり)
2006年 05月 18日
‥‥記憶は消せても、愛は消せない‥‥‥。
‥‥今日と同じ景色を私は明日も見ることが出来るだろうか‥‥。
広告代理店のバリバリ管理職が突然若年性アルツハイマーと宣告される。最初は何気ない会話のなかで、スターの名前が出てこないという、よくある出来事から始まる。私など、2歳下の妹との最近の会話は代名詞ばかりで人名がいつも欠如している。「ほら、あの、もう終わったけど、6チャンネルでやってた、ええっと、あの時代劇の俳優さん、名前なんやったっけ? あの、ほれ、この前結婚した、えっと誰やったっけ、顔は出てるんやけど、その女優さんが奥さん役してて、、、」という訳のわからない会話を日々繰り返していて、決して他人事ではない。
「あなたはアルツハイマーに間違いありません」と冷静に告げる若い医師に主人公佐伯は「他人事だから、そんな簡単に言えるんだ」と怒りをぶつけるが、病気は自分がかかるまでは、実際はどこまでも他人事なのだ。同情だけでは周囲がつぶれてしまう。医師役の及川光博(ミッチー)や部下の田辺誠一がそのあたりの微妙な感情をうまく表現している。
症状が進み、病気を隠して働く佐伯は通いなれたクライエントへの道すらわからなくなる。ケイタイで部下の女子社員の指示に従いながら、目的地を探して渋谷の街を右往左往する姿がとても印象的だった。病気が上司にばれ、退職することになった佐伯は「26年尽くしてきた会社をこんな形でやめるとは思わなかった」とつぶやく。病気とは比べ物にならないが、やはりリストラで長年勤めた会社を辞めざるをえなかった私には、その台詞が身にしみた。
退職の日、たったひとりで会社のビルを出る佐伯を元部下たちが見送るに来る。名前を書いたひとりひとりのポラロイド写真を贈り「佐伯さんのことは忘れません。佐伯さんも私たちを忘れないでください」と女子社員が語る場面では涙が流れてしようがなかった。転職を重ねてきたとはいえ、30年もの間、会社勤めをしてきた私はこういうシーンに弱い。
主人公佐伯を演じている渡辺謙が、エクゼクティブプロデューサーとして原作の映画化を実現したということだが、かつて白血病を克服した体験が関係しているのか、見終わって心に残ったのは「生きるということは?」という問いだった。
昨年公開された韓国映画「私の頭の中の消しゴム(내 머리 속의 지우개)」は20代の若い女性のアルツハイマーを描いていてもテーマはラブストーリーだったのに対し、「明日の記憶」では、「明日、今日の記憶が失われていようとも、それでも人は生きて行くんだ」というメッセージを感じさせてくれた。
渡辺謙と妻役の樋口可南子以外の出演者は知らずに出かけたが、助演者に好きな俳優さんが多く出ていて、得した気分だった。調子のいいクライエントの課長を演じる香川照之の餞別の言葉には泣かされたし、陶芸家で今はボケ老人と呼ばれている大滝秀治が「酒と肴と女があればいい」と調子はずれの懐メロを唄う姿は笑いを誘う。エンディングクレジットが流れても、席を立つひともなく、宮本文昭のオーボエが心にしみた。
先日の映画レディスデーに本作品を観ようと梅田の映画館に行ったら満席で入場できなかったわ。最近、日本映画も頑張ってるね。一昔前までは、邦画かぁ…と思って、ちょっとバカにしてたことが多かったけどね。
エンドロールに宮本文昭さんのオーボエが流れるんだー。絶対近いうちに観にいかなくちゃあ!
大好きなコンサート「Live Image」で、今年も彼の素敵な音色を聴きました。来年の春でオーボエをやめるなんて、もったいないね。彼のイマージュでの衣装とトークはスゴイよ。ピアニスト松谷卓君のブログ見てね。http://warp.typepad.jp/informel_blog/
宮本さんのど派手な衣装、見せてもらったよ。かれのオーボエを聴きながら、毎年、「イマージュ」に通っているmiyochanのことを思い出したもんね。映画のなかでも流れてたかもしれないけど気が付かなかった。DVDが出たら、もう1度みてみたいな。
身につまされるせいか、中高年女性が多かったねえ。まあ、平日のレディースデイはいつでもかな。