韓国映画『トガニ 幼き瞳の告発』
2012年 09月 08日
俳優のコン・ユさんが兵役中に原作を読み、その内容に衝撃を受けて映画化を実現させた作品。現実に起こった事件だけに、見ていても、出口が見えない閉塞感にとらわれる。
舞台は、韓国の霧津(ムジン)という地方都市の聴覚障害児学校。新たに赴任してきた美術教師のイノ(コン・ユ)は、学校内や寮で眼にした教師や女寮長による生徒への度を越した暴力に愕然とする。そして、明らかになる双子の学校長と行政室長や教師による複数の女子や男子への長年にわたる性的暴行の事実。
イノは人権センターのユジン(チョン・ユミ)たちと共に学校長たちを告発する。加害者の学校長たちは逮捕され、裁判が始まるが、終わってみれば、裁判長、検事、弁護士、警察など、すべてが被告側の人間であるという理不尽極まりない結末。幼子を繰り返し凌辱した罪にくだされた判決が執行猶予つきという、あり得ない現実。だが、これは、実話をもとにしたストーリーなのだ。
『赤と黒』の最終話にも心臓が落ちてゆくような寂しさと脱力感を味わったけれど、それをはるかに超える憤りと失望感。暴力の標的にされ、死んでいった幼い兄弟があまりに可哀想すぎる。こういう現実のなかでも、主人公の女子ふたりの聡明さと明るさが救い。そして、校長たちの罪を告発したものの、決してスーパーマンではない普通の人であるイノに共感を覚える。こういう現実に直面したとき、もし、自分がイノに立場にいたとして、何ができるというのか。他の多くの教師のように見て見ぬふりをするのか。黙って職を離れるのか。それとも、イノ同様、職を賭しても告発に踏み切れるのか。
この映画には、キム・ナムギルに縁ある俳優さんが出演している。ひとりは、弁護士役でホン会長(赤と黒)のチョン・グクファンさん、もうひとりが、刑事を演じるヨムジョン(善徳女王)のオム・ヒョソプさん。どちらも、悪ですぞ。
結論の出ない感想文。
この映画の背景については、松谷創一郎さんの文章が素晴らしい。
できれば、レンタルに早く出して頂いて、家でしんみり考えながら見られるようにして欲しいのですが。
でも、最近の韓流はずしモードからすると、韓国の映像作品諸々が視聴しにくくなるかも。今までが少々浮かれ過ぎの結果、玉石混淆で溢れ帰っている状態ではありましたから、質を問う選別が行われるなら厳しくなるのは悪いことではないとは思いますが、、、。
重いテーマに違いはないですが、露骨な描写があまりなかったせいか、思っていたよりも、観たあとに澱みが残るほどではなかったです。
どこの国の映画ということではなく、観たい映画は手に入れようとするし、観ようとするしね。私は、質そのものより、好き嫌いかも知れないです。